マンション売却における「相場価格」と「売却価格」は混同されがちですが、この2つには明確な違いがあります。相場価格はあくまで過去の取引データや周辺物件の動向を基にした参考値であり、売却価格とは実際に売主が売り出す価格であり、戦略的に決める必要がある数値です。ここでは、この違いを踏まえ、効果的な価格設定を行うために必要な知識と、過去事例をもとにした実践的な方法を解説します。
まず、相場価格とは、同一エリア・同一条件下にある物件の平均的な取引価格を示す数値です。国土交通省の「土地総合情報システム」や不動産流通機構の「レインズマーケットインフォメーション」などで、マンションの築年数、間取り、駅からの距離、階数などを元に成約事例を調査することで、大まかな価格帯を把握することが可能です。
一方、売却価格は「売主の希望価格」であり、相場を参考にしつつ、内装の状態やタイミング、売却理由、周辺競合物件の数、販売戦略などを加味して決定されます。たとえば、同じ建物・同じ間取りでも、リフォーム歴がある、角部屋である、高層階で眺望が良いといった要因により、価格に数百万円単位の差が生じることは珍しくありません。
ここで重要となるのが「相場を知ったうえでどのように売却価格を設定するか」という戦略です。以下に、相場価格と売却価格を比較する際に役立つ判断基準を整理しました。
判断基準
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相場価格の目安
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売却価格設定時の考慮点
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築年数
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築10年以内は相場維持しやすい
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築15年以上は減価要素を考慮する
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間取り・面積
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70㎡前後・3LDKが最も需要が高い
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1LDK・4LDKなどは対象層が限定される
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階数・向き・角部屋
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南向き・中層階・角部屋が人気
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人気条件がそろえばプラス査定が期待できる
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立地(駅徒歩・都心距離)
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駅徒歩10分圏内は高値安定
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駅遠やバス便地域は価格調整が必要
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周辺競合物件数
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多いほど価格競争が激しくなる
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買い手が比較しやすくなるため注意が必要
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市場の需要動向
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地価や金利の動向に影響を受ける
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将来の金利上昇リスクも考慮すべき
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例えば、現在の東京都中野区にある築12年・3LDK・70㎡・駅徒歩7分の物件の場合、過去半年の成約事例では平均価格が6,300万円前後となっており、同条件の売却価格を6,480万円に設定して早期売却に成功した例もあります。一方で、価格を6,800万円に設定したが3ヶ月間売れず、結果的に値下げしたケースも存在します。
売却価格を決める際のアプローチとして有効なのが「比較査定」と「段階的価格設定」です。比較査定とは、複数の不動産会社に査定を依頼し、提示価格とその理由、販売戦略を比較する手法です。段階的価格設定とは、最初は少し高めに価格を設定し、反響が少なければ1ヶ月単位で段階的に価格を下げていくという戦略です。この方法であれば、相場を見ながら適正価格に着地しやすく、急ぎすぎて安売りしてしまうリスクも減らせます。
価格設定で注意すべきポイントは、以下のとおりです。
1 過去の成約価格を正確に把握する(最低3件以上)
2 競合物件の売出価格と条件を比較する
3 自身の売却希望時期と市場動向を照らし合わせる
4 売れ残りリスクを避けるため「適正価格」を意識する
5 感情や思い入れによる価格設定を排除する
価格設定は売却成功のカギであり、感覚や希望ではなく「客観的な情報と戦略」に基づくことが重要です。売主の希望価格と買主の納得価格が交わる点こそ、成約のベストポイントであることを常に意識しましょう。